
リフォームポイント
バリアフリーにする6つのキーワード 「段差・手すり・引き戸・温度差・明るさ・素材」
公開日:2016年09月15日

バリアフリーリフォームを行うにあたり、基本となる改修箇所をご紹介します。ポイントは「段差」「手すり」「引き戸」「温度差」「明るさ」「素材」です。やみくもに設備を増やすのではなく、必要なところに必要な分だけ備えることが肝心です。
段差をなくす方法
家の中の段差をなくすことこそバリフリーリフォームの基本です。段差がなければつまずいて転倒することもなければ、踏み外して怪我をすることもありません。健康な大人や若者にはどうということのない高低差も、身体の不自由な人やお年寄り、小さな子供にとっては危険であることが少なくありません。家の中の段差を完全になくすことで、転倒事故を防ぐことができます。
またぎ段差をなくす、単純段差に変える
またぎ段差とは、凸のような形状の段差で、単純段差よりもつまずきやすい危険な段差です。引き戸のレールなどに多く使われています。またぎ段差をなくすには、凸の部分を削ってなくしたり、単純段差に変えたりする方法があります。
引き戸のレールの場合、凸の部分を削ってM字型レールとし、戸車のほうが出っ張るようにします。戸車は引き戸と一緒に動きますので、これでまたぎ段差はなくなります。ドアをなくして敷居を取り払う場合は別の材料で埋め戻しますが、敷居を撤去できない場合は敷居の幅を30cm以上に広げることで単純段差に変えることができます。
段差をスロープにする
3cm程度の小さな段差であれば、断面が三角形の小さなスロープを設置するだけで簡単に解消できます。ただし廊下に面している段差の場合、スロープが廊下側にはみ出すことになりますので注意が必要です。
段差が5cmから20cm程度までの場合、スロープの長さが中途半端になり、それでいて傾斜がある程度できるため、スロープに足をつけた状態で体勢が不安定にならないかどうか、充分に確認します。スロープが短すぎて結局はまたいで移動するようになり、またぎ幅が広がってしまうだけでスロープをつける意味がありません。
20cmを超える段差の場合、勾配を緩やかにするだけのスペースがあれば、スロープを設置できます。スロープの上下には1.5m程度の水平な踊り場部分を確保します。
床を貼り重ねる
床を貼り重ねて段差をなくす時は、床の高さが均一であるか注意しましょう。バラつきがあれば、段差が大きくなる場所が出てきます。また床を上げることによって影響が出る箇所(浴室の洗い場など)に支障が出ないかどうかも確認する必要があります。
リフタや段差解消機を使う
スロープを設置するにはスペースが足りない場合、リフタや段差解消機を使う方法があります。
段差解消機は小さなエレベーターのようなもので、わずかなスペースで垂直に昇降することができます。リフタは段差の前後で身体を吊り上げて移動させる機械です。段差の大きさがリフタで吊り上げられる幅よりも小さいことが条件となります。車椅子の乗りかえなどに効果的です。
踏み台を設ける
踏み台を設けて段差を小さくする方法です。段差の数が増えるため、それぞれの段差の幅をなるべく均一にすることが重要です。特に3段以上の段差ができる場合は、段差幅にバラつきがあるとバランスを崩しやすくなります。踏み台と同時に手すりを設置するとより安定します。
手すりをつける際の注意点と手すりの種類

バリアフリーリフォームにおいて、手すりを設置することは段差の解消と同じくらい重要で、基本的なポイントでもあります。要所要所に身体を支える手すりをつけることで移動が楽になり、転落や転倒の事故を防止することもできます。
家の中や周囲で手すりを設置するのに効果的な場所は、立ち座りをする必要がある場所、歩く距離が長い場所、急な傾斜や段差がある場所、滑りやすい場所などです。手すりをつけることで、転倒などの事故を大幅に軽減することができます。
手すり設置の注意点
転倒や転落を防止し、歩行や動作を補助することを目的とする手すりは、握りやすい素材や形状であり、適切な位置に設置されていることが重要です。
素材は滑りにくく握りやすい凸凹がついたタイプが理想です。しっかりと握れるよう、太すぎず細すぎない形状のものを選びましょう。先端が引っかからないよう、出っ張りをつくらないようにすることも大切です。
廊下の手すりのように、立った状態で握る水平の手すりは、750mm~850mmの範囲内が一般的です。手すりを使う人の身長や手の長さなどから握りやすい位置に設置しましょう。出入口などの垂直手すりは長さ50mm以上、上端は肩より少し上の位置にくるように設置するのが目安です。
高齢者や麻痺のある人は、通常より高めに設置するほうが使いやすいので、実際に利用する人の意見を聞きながら決めるようにしましょう。
手すりの種類
手すりには歩行や動作をスムーズに行うための補助と、転倒しないよう支えるという2つの役割があります。設置場所や役割から歩行補助手すり、動作補助手すりの2種類に分類されます。
歩行補助手すりは階段やスロープなどに設置される長い手すりで、移動しながら手を滑らせて握り歩行を補助します。動作補助手すりは浴室や玄関などに設置される短い手すりで、浴槽に入ったり上がりかまちにのぼったりする動作を補助します。
縦手すり(I型手すり) |
縦手すり(I型手すり)とは、地面と垂直に設置される比較的短い手すりです。たとえば、玄関などの重くて大きいドアを開閉する際に、ドアの取っ手を握る手とは反対の手で握って身体を支えたり、段差を上り下りする際に握って姿勢を安定させたりします。玄関以外では浴室やトイレなどに多く採用される手すりです。 しっかりと握って使う手すりですので、握りやすい形、適度な高さが重要。手触りにも配慮して選びましょう。 |
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L字型手すり |
L字型手すりとは、地面から垂直に設置する縦手すりと地面と水平に設置する水平手すりを組み合せた手すりです。 立ち上がる時は水平の部分を、しゃがむ時は垂直の部分を握るのに適しているため、トイレや浴室、上がりかまちなど、主に椅子のある場所、立ち上がったりしゃがみこんだりする場所に設置されます。特に立ち上がりの動作ではしっかり握る必要があるため、握りやすさは重要です。 |
波型手すり |
波型手すりとは、直線ではなく波のようにくねくねと曲がった手すりのことです。公共のトイレなどによく設置されている動作補助手すりで、地面から斜めに取り付けられているケースが多く見受けられます。 直線の手すりの場合、握る手の角度が一定になりますが、波型なら握りやすい好きな位置、角度を選ぶことができます。多くの人が利用する場所に適した形状の手すりです。 |
階段昇降用手すり |
階段昇降用手すりとは、階段を昇降する際に身体を支えるために片手で滑らせながら持つ手すりです。高さは段鼻から75cm程度、長さは階段の最下段と最上段からそれぞれ20cm以上水平に伸ばすのが良いとされています。 |
玄関用手すり |
玄関用手すりとは、玄関の靴脱ぎ場と上がりかまちとの段差が激しい時などに、昇降を楽にするため設置する手すりです。手すりを地面から垂直になった2本の棒で支えるような形状をしており、2本の棒はそれぞれの段差に固定させて使います。 |
可動型手すり |
可動型手すりとは、片方だけが壁などに固定されており、もう片方が可動するようになっている手すりのことです。トイレなどでは水平方向に稼動するようになっており、肘置きのように使えるタイプが便利です。廊下などでは遮断機のように上げたり下ろしたりできるようになっている遮断機式が便利です。いずれも使わない時はしまうことができて邪魔になりません。 |
光る手すり |
光る手すりとは、暗い場所でも見えるよう、照明を内蔵するなどしている手すりのことです。手すりそのものが全体に光るものもあれば、手すりの周囲を広く照らすもの、足元を照らすものなどがあります。 大抵はLEDの照明が採用され、明暗センサーや人感センサーなどによって、自動的にON・OFFできるものも多くなっています。階段に設置することが多く、夜間の昇降時に危険を減らすことができます。 |
とびらを引き戸に変更する
開き戸は、引き戸に比べると開閉に力がいる上に動作も多いため、身体の不自由な人にとっては負担の大きい建具です。またとびらを開けた時に人にぶつかる可能性があります。特にトイレなどの限られたスペースに内開きのとびらを設置すると、万が一中で人が倒れた際にとびらが開けられなくなり、救助が困難になるというケースもあるためおすすめできません。
一方、引き戸は、その場から動かずにドアを横に動かすだけという単純な動作になるため、力がない高齢者や障害者でも容易に開閉できます。車椅子の通行も楽になり、バリアフリーの観点からは引き戸が最も適しているとされています。ただし引き戸でも段差があると転倒をまねく恐れがあるため、段差をつくらないよう注意しましょう。
引き戸にはこんなメリットも
開き戸は、開く側にスペースが必要です。とびらを大きくすればするほど必要なスペースも多くなります。その点引き戸は開閉に際してスペースが不要です。身体さえ入れば狭い場所でも開閉が可能となるため、家具の配置にも余裕が生まれます。
また開き戸の場合、ドアを開け放しておきたい時はストッパーなどが必要ですが、引き戸はそのまま開けておく事ができます。音も静かで、開き戸のように何かの拍子にバタンと大きな音を立てて閉まる心配がありません。
住宅内の温度差をなくす

「温度のバリアフリー」という言葉をご存知でしょうか。これは、家の中で温度差をつくらないという考え方です。
気密性、断熱性の悪い家では、居室だけが暖かく、トイレや浴室などは寒い、といった室内温度の差が生じます。しかしこの温度差は、特に高齢者の身体に大きな負担をかけています。現在問題視されているヒートショック現象を予防するためにも、その原因となる住宅内の温度差をなくすことは非常に重要です。
また喘息やアトピーなどのアレルギー症状を抑える効果があることも分かっています。温度のバリアフリーは高齢者に限らず、アレルギーを持った人にとっても有効なリフォームです。
温度差があると、ヒートショックを招く
ヒートショックとは、家の中の温度差によって血管が収縮し、身体に悪影響を与える現象のことです。特に冬場に多くみられます。
暖房で暖められた部屋から寒いトイレや浴室などに移動すると、熱を逃がすまいと身体の中の血管が縮みます。そして急激に血圧が上昇し、失神や脳卒中、心筋梗塞を引き起こすという恐ろしい現象です。
家の中で死亡する高齢者の4人に1人がヒートショックによるものであり、年間1万人以上にもなります。血管が細くなりがちな高齢者にとって、深刻な問題です。
浴室・脱衣所・洗面所の温度差をなくす
居室との温度差があり、入浴のために裸になる場所でもある浴室・脱衣所、洗面所では、薄着でも寒く感じないようなヒートショック対策が重要です。室内暖房や床暖房を導入すれば居室・浴室・脱衣所・洗面所の温度差を少なくすることができます。
浴室暖房はヒートショックを和らげるだけでなく、カビを防ぎ、洗濯物を乾かすのにも便利です。脱衣所も同時に暖めるタイプのものや、脱衣所・洗面所用のヒーターや暖房機もあります。また床暖房では足元から暖まり、冷たいタイルの上を裸足で歩かなければならないといった事がなくなります。
トイレの温度差をなくす
ただでさえ寒くなりがちなトイレでは、下着をおろして座る便座が冷たければ身体的に大きなダメージを受けます。暖房便座にすることで、ヒートショックを和らげることができます。
そのほか温水洗浄、室内暖房、床暖房などで居室との温度差をなるべく小さくすると良いでしょう。トイレ専用の暖房器具も豊富です。便器と一体型で場所をとらないタイプや、人感センサーによって人が入っている間だけトイレ内を暖める節電タイプなどがあります。
住まいの断熱強化で温度差をなくす
断熱リフォームをすることで、家の中の温度差は小さくなり、ヒートショック対策にも有効です。
まずは温度差が出やすい浴室や脱衣所、トイレなどを部分的な断熱化を図る方法があります。最も危険な場所に対策を施すことで、ヒートショックのリスクをできる限り少なくします。
また窓や床、天井など、断熱効果の出やすい箇所を部分的に断熱する方法もあります。床や天井には断熱材を施工し、窓には断熱ガラスや二重窓を採用することで、より住宅内の温度差をなくすことが可能です。
最後に最も断熱効果が高い方法として、住宅全体を断熱する方法があります。天井や窓はもちろんのこと、外周も含めた家全体を断熱リフォームし、住宅内すべての温度を一定に保つことができます。
足元を明るくする
足元が暗ければ段差などが目に入らず、つまずきや踏み外しの原因になります。障害物が目に入りやすいよう足元を明るくすることが大切です。特に廊下や階段、玄関アプローチなどに足元灯を設置するようにしましょう。
暗ければつまずきやすいのは高齢者や障害者に限ったことではありません。足元灯の設置は家族全員の安全対策になります。特に妊婦や子供がいる家庭では、大いに役立つことでしょう。
住宅内の照明は明るめがよい
年齢を重ねると、人は視力が低下します。80歳代で水晶体が白濁する白内障発症リスクが100%になることからも、ほぼ例外なく老化によって視覚機能が低下することが分かります。視力が低下すると、正常な人と同じ明るさではものを見るのに不充分であるため、高齢者がいる家庭のバリアフリーリフォームでは、照明を明るめに設定することが大切です。
また高齢者は明暗によって視界を調整する機能も衰えていますので、場所によって大きな明暗がないよう、住宅内の明るさを同じくらいにすることも重要です。
すべらない素材をつかう
バリアフリーリフォームでは、滑りにくい床材に変更することも忘れてはなりません。廊下や階段、玄関のほか、浴室や脱衣所のように濡れて滑りやすい場所も慎重に素材を選びたい箇所です。
転倒や転落によって大怪我につながることもあります。滑りにくさはもちろんですが、万が一転んでも衝撃を吸収してくれる怪我をしにくい素材を選ぶことも重要です。
すべらない床材の種類
安全性を考えるなら滑りにくい床材を選ぶべきですが、摩擦が強すぎてつまずきやすくなってもよくありません。滑らず歩行性も良くクッション性があるコルクタイルやクッションフロアは万一転んでも衝撃を和らげてくれます。フローリングの居室に適した素材です。
浴室や玄関には万一濡れていても滑らないような無釉タイル、ノンスリップ加工がされたタイルなどがあります。コルクタイル、プラスチック系シートは靴下でも滑りにくく、廊下に適しています。階段には滑りにくい木質のものを選び、段鼻にノンスリップ材をつけると安心です。