
基礎知識
断熱材の種類と選び方
公開日:2019年01月22日

断熱材は、ガラスなどの無機物を繊維にした素材が原料の「無機繊維系」、合成樹脂を発泡させ細かい空気層を生成させた「発砲プラスチック系」、木の持つ断熱性能を生かして作られた「木質繊維系」の3つに分類されます。それぞれの特徴を詳しくご紹介するとともに、選び方もご紹介致します。
無機繊維系断熱材の種類
ロックウール
ロックウールとは、玄武岩や高炉スラブなどの鉱物を生成してつくられた人造繊維断熱材です。繊維の中の動かない空気層によって、優れた断熱性能と防音性能を発揮します。
燃えにくく溶けにくい特性があり、繊維の耐熱温度は600℃以上という優れた耐火性能をもっています(ただし繊維同士を接着するために使うバインダーなどはもっと低い温度で燃え始めます)。万一燃えた時も、繊維からは有毒ガスを出しません。人体への有害物質とされるホルムアルデヒドの含有量は非常に少なく、一般廃棄物として処理できます。断熱材としては比較的安価ですが、耐久性があるためコストパフォーマンスにも優れており、地球環境への負荷が小さいエコな断熱材です。
また耐水性にも優れています。ロックウールの水をはじく性質は、結露を防止し建物を腐食やシロアリから守ります。万が一濡れても内部に浸透せず断水性能が劣化することはありません。
グラスウール
グラスウールとは、ガラスを主原料とする繊維系断熱材です。ガラスを高温で溶かし、遠心力を利用して繊維状にし、バインダーと呼ばれる接着剤を使って成形します。使われているガラスの8割以上は回収したリサイクルガラスです。
複雑に絡み合った繊維の中には移動しにくい空気層があり、空気と共に熱が移動するのを防ぎます。断熱性能が非常に高い断熱材です。繊維をより細かくすることで断熱性能をさらに高めた高性能グラスウールもあります。多孔質材料であるため空気室が音を吸収し、幅広い音域に対して優れた防音性能を発揮します。
主原料が不燃性のガラスであるため、万一の火災の時にも延焼を防ぎ、燃えても有毒ガスも発生しません。グラスウールにはもともと耐水性、耐吸湿性がありますが、繊維の1本1本に撥水処理をした撥水グラスウールは特に耐水性に優れています。ただし結露対策は必要です。
グラスウールは安定した素材で、気温や湿度、薬品などによる変形、断熱性能の劣化はほとんどありません。20年以上断熱性能が劣化しない耐久性のある断熱材です。そのほか安全性が高い、シロアリに強いといった特徴もあります。
発砲プラスチック系断熱材の種類
ビーズ法ポリスチレンフォーム
ビーズ法ポリスチレンフォームとは、ポリスチレン樹脂と炭化水素系の発泡剤、難燃剤からなるビーズ状の原料を予備発泡させ、その後金型に充填して加熱することで、約30倍~80倍に発砲してつくるドイツ生まれの断熱材です。EPSと呼ばれることもあり、一般には発泡スチロールの名で知られています。
金型の形状によって様々な形状の製品をつくることができ、軽くて緩衝性が高いのが特徴です。耐水性にも優れており、施工のしやすさから梱包材、保温材など幅広い用途に使われています。
フロンやホルムアルデヒドといった有害物質が含まれておらず、優れた安全性と長期安定性をもっています。また他の断熱材に比べて最もリサイクルが進んでいることから、環境負荷が少ない断熱材といえます。
押出法ポリスチレンフォーム
押出法ポリスチレンフォームとは、発泡させながら押し出して形成するタイプの断熱材です。原料はポリスチレン樹脂と発泡剤、難燃剤で、ボードのような形をしています。熱が気泡に閉じ込められるため、断熱性能に大変優れています。軽くて耐圧性があることから、薄くても充分な断熱効果が得られ、建物の外側に貼り付ける外断熱工法に適しています。時間が経っても断熱性能はほとんど低下しません。
気泡が密封状態であることから、水分は表面に付着するだけで、吸水はごくわずかです。水に強く、耐吸湿性があり、変形や変質もありません。そのため基礎や土間床の断熱材としても安心して使えます。また適度な硬さがあり、施工しやすいため、加工を省力化でき経済的です。
ポリエチレンフォーム
ポリエチレンフォームとは、ポリエチレン樹脂と発泡剤を原料として発泡させた断熱材であり、独立した細かい気泡で構成されています。断熱性、防音・遮音性、耐候性、耐久性に優れ、耐吸湿性、耐久水性が高い断熱材です。
柔軟性があるため加工の汎用性が高く、円形や棒状など形状はさまざまです。壁や柱の間にも充填しやすく、すき間をうめたり覆ったりと幅広い用途で用いられています。
フェーノールフォーム
フェーノールフォームとは、フェノール樹脂と発泡剤、硬化剤などからなる断熱材です。ボード状の形状をしています。気泡は独立しており、耐熱性、防火性に優れているのが特徴です。燃えると炭化し、煙や有毒ガスをほとんど発生しない安全性の高い断熱材です。また熱伝導率が低く、優れた断熱性能をもっています。
ただしプラスチック系断熱材の中では耐吸水性がやや弱く、水分を含むと断熱性能が劣化します。そのため基礎や床下の断熱材として使うにはあまり適していません。
木質繊維系断熱材の種類
セルローズファイバー
セルローズファイバーとは、新聞古紙を原料とするエコロジーな断熱材です。地元の新聞古紙を使うため、生産時の製造エネルギーが少なく済みます。環境負荷が少ない製品です。
繊維が絡み合い空気の層をつくるため、繊維系断熱材の中でも特に断熱性能が優れています。柔らかくて施工しやすく、隅々まで偏りなく充填できるのもメリットです。このため防音性能に優れており、騒音の少ない住環境をつくることができます。また調湿効果があり、部屋の中を快適な湿度に保つことができます。カビや菌の発生を抑える効果もあります。
製造過程で、耐火性を確保するため難燃剤としてホウ酸が添加されています。万一火災になった時も、表面が炭化するのみで延焼を防ぎ、有毒ガスの発生もありません。ゴキブリやねずみ退治で使われるホウ酸が添加されていることで、高い防虫効果があることもセルローズファイバーの特徴です。虫やカビ、ダニの発生を抑えますが、人体には影響がなく、安心です。
インシュレーションボード
インシュレーションボードとは、植物繊維を原料とし、ボード状に成形加工された断熱材のことです。木材チップなどに手を加え、繊維質を取り出して絡め合わせ、多孔質板にします。絡み合った木材繊維が空気層をつくり、優れた断熱効果を発揮します。
またこの空気層には調湿効果があります。湿気の多い時には吸収し、乾燥した日には放出して室内の湿度を快適に保ちます。これにより結露を防止し、カビやダニの発生を抑えます。
シックハウス症候群やアレルギーの原因となる有害物質はほとんど含まれていません。多孔質のため、防音性にも優れています。外部からの騒音を吸収するだけでなく、室内の音を吸収して和らげるため、楽器を演奏する部屋などに使うと効果的です。
断熱材を選ぶ際に考慮すること
断熱材を選ぶ時は、断熱性能やコストはもちろんですが、耐久性能や防火性能、環境への負荷など、ほかにも考慮すべき点が多々あります。また住宅のどの部分に使うかによっても考慮すべき事柄は変わります。
断熱材は、主に建物の内部に埋め込んで表からは見えなくなる建材ですので、劣化したとしても簡単にそれだけを交換できるわけではありません。新しくするとなると、大掛かりな工事が必要になります。安い断熱材を選んでも、数年で交換が必要となると、結局はコストが大きくなります。まずは耐久性とコストの兼ね合いを考えて選ぶことが重要です。素材自体の耐久性はもちろん、経年による劣化が少なく、内部結露が起こらない断熱材を選びましょう。
あとは、防火、耐火性能、有毒ガスを発生しない安全性、防蟻性能などをできる限り考慮する程度で問題ありません。
断熱性能について
断熱材の断熱性能は熱伝導率と厚みで決まります。熱伝導率とは、熱の伝わりやすさを数字で表したものです。数字が大きいほど熱が伝わりやすい、つまり断熱性能は低いということになります。
熱伝導率は主に断熱材の材質で決まります。しかし熱伝導率が大きければ即ち断熱性能が低いというわけではありません。厚みがあれば断熱性能は高まるため、熱伝導率だけで判断はできません。熱伝導率が小さい素材であれば、薄くても一定の断熱性能が得られますが、たとえ熱伝導率が大きい素材であっても厚みでカバーすることができます。どれだけの厚みでカバーできるかは、熱抵抗値で判断することができます。
熱抵抗値とは、厚みを熱伝導率で割った数字です。数字が大きいほど断熱性能が優れています。断熱性能を決める要素である熱伝導率、厚みの両方から導き出される数字ですので、断熱性能そのものを表しています。
内部結露について
断熱材の内部結露とは、室内外からの暖かい空気に含まれる水蒸気が壁内部の断熱材、あるいはその周辺に水分となって付着する現象のことです。冷たい水が入ったコップを暖かい部屋に置いておくと、コップの周囲に水滴がつくことがよくありますが、建物の壁内部でも同じことが起こります。
結露のメカニズムは気温差です。湿気を含んだ空気が急に冷やされることにより、水蒸気が水分に変わります。見える場所であれば、付着した水滴を拭けば済みますが、壁の内部となると拭くことができないばかりでなく、内部結露が発生していることに気付くこともできません。
断熱材は内部に空気の層を作ることで熱を吸収し、断熱効果を発揮しています。内部結露が発生すると、この空気層に水が入り込み断熱性能が低下します。さらに結露が基礎の腐敗を招き、カビやダニ、シロアリの発生にも繋がります。
このような事態を避けるため、断熱材を選ぶのと同時に適切な工法を選択しなければなりません。断熱材をすき間なく埋め、防湿層や透湿層などの施工が必要となります。ただし適切な施工がなされたとしても、断熱材が劣化によって変形し「すき間」が生まれてしまっては内部結露を防ぐことができません。これも断熱材に耐久性が求められる理由の一つです。
断熱材の形状とそれに適した工法とは
上記に述べたように断熱材には多くの種類がありますが、形状もまたさまざまです。主に「フェルト状」や「ボード状」に形成されたものが使われますが、ばら状のものや形状をもたないものも存在します。形状に適した工法があるのでご紹介します。
フェルト状断熱材
ふわふわと柔らかい、綿のような状態の無機繊維系断熱材です。充填断熱工法や敷込断熱工法では、このフェルト状の断熱材が選ばれます。屋根・天井・外壁・床・基礎など、住宅全体の断熱に用いられています。
ボード状断熱材
工場でボード状に形成された、発泡プラスチック系断熱材です。フェルト状断熱材と同様、断熱化を施せる箇所すべてに用いられます。適した工法もさまざまで、充填断熱工法、外張り断熱工法、張付断熱工法、打付断熱工法で採用されています。
ばら状断熱材
フェルト状やボード状の断熱材は素材をまとめ、ある程度の大きさに形作られていますが、ばら状断熱材は形成されていません。素材が小さく細かいため、隙間に断熱材を入れることも可能です。主に吹付断熱工法による天井や外壁の断熱材として用いられています。ばら状断熱材には、無機質繊維系と木質繊維系のものがあります。
現場発泡
外張断熱工法で使われる現場発泡の断熱材は、施工時に吹き付けることで初めて形作られます。現場発泡で使われる素材は、発泡プラスチック系断熱材です。屋根や床の断熱化に用いられています。